■ 熊野の本

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◆ 紀和鏡『夢熊野』集英社


レビュアー:Matsuboxさん(2004.1.27 UP)

 熊野は山も海も深い。源平の時代、都から見る熊野の地は黒々とした闇の世界であったのだろう。
 源平時代を題材とした小説やドラマなどでは、熊野は背景として描かれることが多いようだが、この物語はその異世界とも黄泉の国ともいわれた熊野の地が舞台の中心となっている。

 主人公は、源為義の娘で熊野の別当の妻であり、「丹鶴姫」「田鶴姫」「鳥居禅尼」「たつたはらの女房」など多くの呼び名を今に残す女性で、この物語では「鶴(たづ)」という名で描かれている。
 物語は「たづ」を中心に、保元の乱に端を発する激動の時代の熊野を描いており、熊野別当家に関わる人々の他、平清盛や源義朝、頼朝、義経、藤原秀衡といった歴史上の人物が次々と「たづ」の前に現れては消えてゆく。

 この物語には「ニシキトベ」や「ヤタガラス」など神話世界の題材も随所にちりばめられていて遙かな時代の熊野への想像力もかき立てられる。
 また、弁慶が「たづ」が鬼に神隠しにあった際に宿した子であったり、弁慶と双子で誕生したかたわれが、他人の精神を操作する異能の者であったりと伝奇的な要素も取り入れられている。

 本書は二段組で六百ページを越える書き下ろしである。読み終えて、著者の熊野へのこだわりに思いを巡らせた。そして熊野に生まれ、熊野に眠る亡き夫中上健次への想いがこの大作に向かわせたのであろうと一人合点したが、それはあながち間違いではないと思う。
 熊野の空、熊野の山、熊野の海に想いを馳せながら、できれば熊野の地を訪れて読みたい一冊である。
 新宮市の写真家、楠本弘児氏のカバー写真も美しい。


レビュアー:柑橘母さん(2003.6.21 UP)

 「熊野」、この言葉の持つ響きに、南紀で暮らしていた子供の頃から憧憬や畏怖を感じていたように思います。
 その理由は何か?それを解き明かす糸口になってくれるのではという期待を持って「夢熊野」を手にしました。

 まず全体のボリュームに圧倒され、歴史や文学に疎い私にも読破できるのか不安になり、及び腰のまま頁を繰り出しました。ところが、本文中には、当時の時代背景や登場人物の系図が随所に散りばめられ、それを水先案内にしながら数日がかりで読み終えることができました。

 読み進む途中で気がついたのは、著者の紀和鏡さんの熊野への想いでした。熊野の地の「あのことも」「このことも」書き留めておきたい、文章に込められた願いの様なものが伝わってきて、後半は一気に読みました。

 私自身が幼い頃に刷り込まれた雑多な事柄、例えば、闘鶏の様子、悪さをした子を連れにくる鴉天狗、夕闇の頃に出没する魔物の話などと、この本の幾つかの場面が重なり合い、古い時代の物語を読んでいるとは思えない心境になることが何度もありました。

 印象に残ったことなどを下に記します。

 * 古代の熊野の人物とされる「ニシキトベ」。作品の中で熊野の母神とされる、この女性は実在したのでしょうか? 地元にいたときに耳にしなかった名前なので、とても興味が湧きました。

 * 熊野といえば、「熊野古道」が、第一に思い浮かぶのですが、登場人物達が頻繁に利用する、当時の「海路」は、各地とどのように結ばれていたのでしょう。

 何処までが事実で何処までが創作なのか、私などには想像もつきませんが、だからこそ「夢」なのかも知れませんね。
 今まで知らなかった「熊野」の別の姿が見えてきたように思います。

 (最後に、このコーナーをご提供下さっている奥熊野通信「み熊野ねっと」さまご夫婦に感謝。)

柑橘母さんのHP「瀬音」はこちら


レビュアー:てつ(2003.5.7 UP)

 源為義が熊野で生ませた娘「鶴田原(たつたはら)の女房」の生涯を描く伝奇小説。
 鶴田原の女房は丹鶴姫とも呼ばれ、源行家の姉、源頼朝・義経・義仲の叔母であり、第19代の熊野別当の妻、第20代熊野別当の義姉、第21代熊野別当湛増の義母、第22代熊野別当行快と第23代熊野別当の母であり、熊野で最も大きな勢力をもった女性でした。

 物語は熊野を中心に描く『平家物語』といった感じ。源平合戦時の熊野別当家の複雑な動きが丹鶴姫を中心として描かれています。

 上下2段組みの600ページ余りの読みごたえのある小説です。やはり熊野を舞台とするならこの時代がいちばんおもしろいですね。

 作者の紀和鏡(きわきょう)は、戦後生まれで初の芥川賞受賞者となった中上健次(和歌山県新宮市出身)の夫人。

(てつ)

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