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真名井社(まないしゃ)

 和歌山県田辺市本宮町本宮 本宮村:紀伊続風土記(現代語訳)

熊野本宮の神事に用いられる神聖な水の湧き出る井戸

真名井社

 旧の国道311号線沿いにある真名井社
 井戸が御神体。
 熊野本宮大社の末社で、本宮の神の最初の降臨地とも伝えられます。
 祭神は天村雲命(あめのむらくものみこと)。

 熊野本宮大社の例大祭の、4月13日の「宮渡神事」、4月15日の「渡御祭」では、ここで神事が執り行なわれます。また1月7日の本宮大社の八咫烏神事は、新年の初水をここから汲んで執り行われます。

 熊野本宮の祭りや神事は真名井社なしには成立しません。真名井社は熊野本宮にとってとても重要な場所です。

真名井社

 真名井社は、土地の人には真名井さん呼ばれます。「真名井」とは神聖な水の涌く井戸のこと。

 小塩山の下にあるので小塩井とも言います。後背の山を小塩山というのは、塩は神様に供える神聖なものだからでしょうか。小塩山で浄められた水がここで湧き出ます。

 また、閼伽井(あかい)さんとも呼ばれます。
 閼伽とはもともとは梵語で水のこと。日本では仏に供える水のことをいいます。「閼伽井」で仏に供える水の湧く井戸。真名井社のある谷は現在でも「あかいだに」(漢字で書くと、閼伽井谷ではなく赤井谷となっていますが)と呼ばれています。神仏習合の聖地であった熊野らしい地名です。

真名井社

 『紀伊続風土記』の本宮村の項には、

真名井
本宮の社の西3町ばかり。小塩山の下にある。あるいは小塩井ともいう。御炊の井である。天忍穂井の意味か。社家の者が社役を勤める始めにここで行を修すという。いま閼伽井という。これは後世、山伏の行所として名づけたのだろう。井の辺りに水神の石殿がある。またそばに薬師堂がある(本尊作知れず。あるいは行基の作という一説に田村将軍の開基。頼朝卿の姑鶴原禅尼再興の地であるというが詳らかでない)。

 とあります。「頼朝の姑鶴原の禅尼」とあるのは「頼朝の叔母鶴田原の禅尼」の間違いでしょう。

アマテラスとスサノオの誓約

 真名井社の名は、アマテラスとスサノオが誓約(うけい)をした場所である「天の真名井」に由来するのでしょう。誓約とは、神に誓いをたてて、ある事柄についての吉凶・真偽・成否についての神意をうかがう占いの一種。
占いの一種。アマテラスとスサノオが誓約をするにいたるいきさつをざっと述べると、以下のとおりです。

 火の神カグツチを生み、火傷を負って死んでしまったイザナミ。夫であるイザナギはイザナミを追って黄泉の国にまで行くも、イザナギの死体となって腐っていく姿を見て、ショックを受け、逃げ帰る。
 黄泉の国の汚れを洗い流すため、イザナギは筑紫の海で禊はらいを行う。その折にたくさんの神が生まれるが、最後に左の目を洗うとアマテラスが、右の目を洗うとツクヨミが、そして鼻を洗うとスサノオが生まれた。
 イザナギは、アマテラスには天上(高天原)を、ツクヨミには海原(『古事記』では夜の世界)を、スサノオには地上(『古事記』では海原)を治めるように命じた。
 しかし、スサノオは命じられた国を治める役割を果たさず、ただ泣くばかり。母(イザナミのこと)のいる根の国に行きたがる。
 イザナギは怒り、「望み通りにしろ」とスサノオを追放する。
 そこで、スサノオは、根の国に行く前に、姉のアマテラスに別れの挨拶をしようと天上に昇る。
 スサノオが天に昇るとき、海は轟きわたり、山も鳴りひびいた。このあまりの猛々しい登場ぶりに、アマテラスは、スサノオが国を奪いに来たのかと男の姿で武装してのぞむ。

 そこでスサノオは自分に悪意が無いことを証明するため、誓約をして子を生むことで占い、潔白を証明しようとします。この誓約をして子を生む場所が「天の真名井」でした。

 そこでアマテラスはスサノオの剣を借りて三つに折って、天の真名井で振りすすいで、よく噛んで霧を吹き出した。その霧から3柱の女神が生まれた。
 スサノオはアマテラスが身に付けていた玉を貰い受けて、天の真名井で振りすすいで、よく噛んで霧を吹き出した。その霧から5柱の男神が生まれた。
 5柱の男神を生んだスサノオは自らの潔白を証明した(『古事記』ではスサノオの持ち物から女神が生まれたことで、自らの潔白を主張した)

 「真名井」の聖なる水がこの誓約に必要だったのでしょう。

(てつ)

2003.2.28 UP
2013.4.24 更新
2014.4.16 更新
2020.3.28 更新

参考文献

船玉神社へ

アクセス:JR新宮駅から熊野交通バスなどで1時間20分、熊野本宮駅下車、徒歩1分
駐車場:駐車場なし

本宮町の観光スポット