■ 熊野古道 熊野九十九王子 |
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◆ 継桜王子(つぎざくらおうじ) 和歌山県田辺市中辺路町野中 |
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社殿に向かう石段を挟んで10本ほどの杉の巨木が立ち並んでいます。推定樹齢は1000年。大きいです。熊野古道「中辺路」沿いではこれほど大きな杉は他に見ることはできません。 これらの巨杉群は野中の一方杉(のなかのいっぽうすぎ)と呼ばれます。「一方杉」と呼ばれる由縁は、杉のすべてが熊野那智大社のある方向(南)にだけ枝を伸ばしていることです。日射しや地形の関係で、一方向にだけ枝を伸ばしているということなのでしょうけれど、那智を遥拝しているかのように見ることもできます。野中の一方杉は県の文化財に指定されています。
ところで、王子は普通、土地の名をもって呼ばれます。王子はその土地の人たちにとっては氏神であり、その土地の産土神であるわけです。 奥州平泉の藤原秀衡(ふじわらのひでひら)が、妻が身籠ったお礼に熊野参詣した。 というようなものです。この話には少し違う話もあって、 赤子を乳岩に置いて来た秀衡は、野中まで来て、赤子のことが気になり、そこにあった桜の枝を手折り、別の木(ヒノキ)に挿し、「置いて来た赤子が死ぬのならばこの桜も枯れよう。熊野権現の御加護ありてもし命あるのならば、桜も枯れないだろう」と祈り、また旅を続けた。帰り道、野中まで来ると、桜の枝は見事につき、花を咲かせていた。
桜は継ぎ木がほとんどできず、ヒノキも台木にならないことから、「継桜」はおそらくはヒノキの老樹の空洞となった所に桜の苗が根を下ろしたというのが実態であったのではないかと思われます。「継桜」は王子社の社前にありましたが、古木して枯れ、初代紀州藩主徳川頼宣の命により山桜を変わりに植えたそうです。その2代めの桜も明治の水害で倒れ、その後、100mほど東の古道端に植えられました。これが現在の秀衡桜です。 王子の前の崖下には、日本名水百選のひとつ「野中の清水」があります。継桜王子からは歩いてすぐ。ぐるっと回って車で行くこともできます。現在も地元の人たちの生活用水として使われる湧水です。 この文章の最初のほうに、この王子が近野神社に合祀されたことを書きましたが、そのことについて紀州が生んだ世界的博物学者である南方熊楠は、当時、東京帝国大学農学部教授であった白井光太郎に宛てた書簡(『神社合祀に関する意見』)のなかで次のように記しています。 合祀濫用のもっともはなはだしき一例は紀州西牟婁郡近野村で、この村には史書に明記せる古帝皇奉幣の古社六つあり(近露王子、野中王子、比曽原王子、中川王子、湯川王子、小広王子)。一村に至尊、ことにわが朝の英主と聞こえたる後鳥羽院の御史蹟六つまで存するは、恐悦に堪えざるべきはずなるに、二、三の村民、村吏ら、神林を伐りて営利せんがため、不都合にも平田内相すでに地方官を戒飭(かいちょく)し、五千円を積まずとも維持確実ならば合祀に及ばずと令したるはるか後に、いずれも維持困難なりと詐(いつわ)り、樹木も地価も皆無なる禿山頂へ、その地に何の由緒なき無格社金毘羅社というを突然造立し、村中の神社大小十二ことごとくこれに合祀し、合祀の日、神職、衆人と神体を玩弄してその評価をなすこと古道具に異ならず。この神職はもと負荷人足(にもちにんそく)の成上りで、一昨冬妻と口論し、妻首縊(くく)り死せる者なり。かくて神林伐採の許可を得たるが、その春日社趾には目通り一丈八尺以上の周囲ある古老杉三本あり。 (中沢新一 責任編集・解題『南方熊楠コレクションV 森の思想』河出文庫、496〜498頁) 同じ書簡の別の箇所には、 前述一方杉ある近野村のごとき、去年秋、合祀先の禿山頂の社へ新産婦が嬰児とその姉なる小児を伴い詣るに、往復三里の山路を歩みがたく中途で三人の親子途方に暮れ、ああ誰かわが産土神(うぶすながみ)をかかる遠方へ拉(と)り去れるぞと嘆くを見かねて、一里半ばかりその女児を負い送り届けやりし人ありと聞く。 (同書、499頁) とも記されています(『神社合祀に関する意見』の口語訳はこちら)。 和歌山県では神社合祀令施行前に3721社あった神社が、施行後の明治44年11月にはおよそ6分の1の600社余りにまで減少し、三重県では施行前に5547社あった神社が明治44年6月にはやはりおよそ6分の1の942社にまで減少しています。 村の小さな神社が廃止されただけでなく、歴代の上皇が熊野御幸の途上に参詣したという歴史のある王子社までもが合祀され、廃社となりました。 南方熊楠は神社合祀に反対し、命がけで戦いました。しかし、熊楠の死に物狂いの奮闘も熊野全域に及ぶ神社合祀の流れには押しつぶされてしまいます。 (てつ) 2003.2.14 UP ◆ 参考文献
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