■ 熊野の説話 |
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◆ 新宿起源伝説 |
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東京都庁近くにある新宿中央公園。その公園内には十二社熊野神社という神社があります。 室町時代、紀州藤代に鈴木九郎という男がいた。 ある日のこと、鈴木九郎は育てた一頭の馬を葛飾の市場で売った。よく見ると、銭がすべて「大観通宝」という中国製の貨幣である。信心深い九郎は神秘的な気持ちに打たれた。そこで九郎は帰り道に立ち寄った浅草寺で銭を観音さまに奉納した。 鈴木九郎は家から少し離れた森に紀州熊野から神さまを勧請し、十二の社からなる神社を建てた。九郎も在家のまま神仏をお祀りする修行者となった。九郎は、修行者の持ち物である角筈(つのはず)と呼ばれる先端部に鹿の角をつけた杖を持って歩いた。そのため、この辺りの土地を「角筈」と呼ぶようになった。 鈴木九郎はその後も順調に財産を増やしていく。日増しに増える財産の保管に困った鈴木九郎は、人夫を雇って、ひそかに近隣の人跡まれな場所に財産を埋め隠すようになる。財産を運び埋め隠す作業に従事した人夫は、作業後に夜道で斬り殺しては、その死体を隠していた。人夫たちは、今の淀橋の辺りにあった橋を渡って、原野に消え、二度と戻ってくることはなかった。そこで、その橋を人々は「姿不見橋(すがたみずはし)」とも「おもかげ橋」とも呼んで恐れた。 鈴木九郎が三十五歳の年、夫婦にはひとりの娘が生まれた。美しい娘に成長したが、ある日、この娘の全身に鱗が生えてきた。頭には角が生え、目はらんらんとして口は裂け、娘はついに大蛇となった。 熊野の神官の家系の鈴木九郎という人物が十二社熊野神社を建てたことは以前から知っていましたが、このような伝説があることは、中沢新一氏の『アースダイバー』 鈴木九郎の黄金伝説の裏に奥州藤原氏の影がある。奥州ではたくさんの金が採れた。その仕事に携わったのは山伏だ。山伏と奥州藤原氏は深い結びつきをもっていた。そのため、奥州藤原氏は熊野とも密接な連携をつくりあげていた。 鈴木九郎の富は増え続ける。九郎は人夫殺しという罪を犯す。そして美しい一人娘は大蛇となる。この伝説は、資本主義の起源と本質とを問題にしている。このことについては少し長くなりますが、『アースダイバー』から引用させていただきます。 貨幣経済が発達してくると、あくせく土地を耕したり、汗水たらして労働をしない人たちのもとに、たくさんの富が集まってくるという現象がおきるようになった。この鈴木九郎のように、チャンスをつかんで商品が流通していく通路のどこかに、うまい居場所を見つけることができた人間は、手頃な資本金をもとに、それをどんどん増殖させていくことができるようになったのである。そういう富の増殖は、金属採掘のイメージでとらえられることが多かった。大地深く埋められていた富を、まるで黄金を掘り出すように、地上に持ち出すことができた人間が、無尽蔵の富を獲得し、さらにそれをどんどんふやしていくことのできる、「はじまりの資本家」となることができたわけである。 そういう資本主義の富は、地中深くにイメージされた「他界」からもたらされる。そうでもしなければ、まるで「無から有が生まれる」ようにして富がふえていく、資本主義の現象を、合理的に理解することなどはできないからである。となると、地中に埋蔵された富の源泉を守っている者は誰か、ということになる。それはワグナーの場合も、わが中野長者の場合も、黄金の上にとぐろを巻いてこの富を守っている、巨大な龍や大蛇にほかならない。こうして室町時代のあたりから、深い淵の底や池の底に棲んでいる龍や蛇のイメージが、資本主義的富の守護者として、人々の想像力に浮かび上がってきたのだった。 中野長者は人夫殺しという重大な罪を犯した。そのおかげで、それまで地中深くにひそんで富の源泉を守っていた大蛇が、美しい一人娘の体に乗り移るという、おそろしい出来事が発生した。大蛇は大雨を降らし、それによって出来た十二社の大池に、隠れ棲むことになった。それまで人に知られなかった資本主義の秘密が、こうしてしだいに地表の現実になってきた。そのとき地表に出来た池の周辺から、新宿は生まれた。 (中沢新一『アースダイバー』 中沢新一氏の新宿起源伝説についての記述はとてもおもしろいです。 (てつ) 2005.9.12 UP ◆ 参考文献
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