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◆ 清姫の墓(きよひめのはか)  和歌山県田辺市中辺路町真砂


「道成寺」のヒロイン清姫の墓

 熊野詣にまつわる物語でもっとも有名であろう物語が安珍清姫の物語ですが、そのヒロイン清姫は、熊野古道「中辺路」が通る現和歌山県田辺市中辺路町の真砂(まなご)という集落が出身地だとされます。
 真砂の富田川のほとり、茅葺きのお休み処「清姫茶屋」の近くに清姫の墓と伝わる石塔が残されていて、石塔の横には「清姫之墓」と刻まれた石碑があり、それには「煩悩の焔も消えて今ここに眠りまします清姫の魂」とのご詠歌が刻まれています。


清姫堂


清姫の墓

 安珍清姫の物語には様々なバリエーションがありますが、大体のあらすじは以下のとおりです。

 平安の昔、奥州の安珍という美形の僧侶が毎年熊野詣をして、真砂の庄司の館に宿を取っていた。
 その家の幼い清姫という娘が駄々をこね、家の女たちが困っているのを見かねて、安珍は「よい子になったら、私のお嫁さんにしてあげるよ」とあやした。その言葉を清姫は本気にし、そのときから自分は将来安珍の妻になるのだと思い定めた。
 それから数年が経ち、清姫は美しい娘に成長した。しかし、安珍は毎年熊野詣の途上に館に立ち寄るものの、いつまでも清姫を妻にしようとはしない。

 ある年、清姫は思い余って、安珍の寝所に忍び寄った。
 「安珍さま。私は、幼いときからあなたさまの妻になるものと心に決めていました。明日になればあなたさまは熊野へ行ってしまい、来年までお会いすることができません。どうか、私を哀れと思って、お情けをおかけてください」と心情を打ち明けた。
 安珍は愛しさに思わず清姫を抱きよせてしまいそうになったが、自分は出家の身、妻をもつわけにはいかないと、端座して、
 「私は熊野詣の途中です。日々精進潔斎してここまで来ました。いまここで精進潔斎を破れば、神仏の罰が私とあなたの両方に下ることでしょう。熊野参詣を果たしたのちここに戻ってくるのでそのときまで待ってください」と偽って、清姫を説得した。
 清姫はその言葉を聞き、安心して自分の部屋に帰った。
 翌日、安珍は熊野に向けて出発。清姫は安珍の帰りを待った。

 安珍は熊野参詣からの帰路、真砂に立ち寄らなかった。清姫は安珍の帰りを待ちわびたが、あまりにも遅いので熊野帰りの旅人に尋ねてみると、旅人は、その僧なら自分より先に下向したと答えた。
 清姫は、だまされたのかと悔しがり、飛ぶように安珍を追い、身を大蛇に変えて日高川を渡り、道成寺の鐘に隠れた安珍を鐘もろとも炎で包み、焼き殺した。

 僧侶に恋した女が想いを拒絶されたのを恨み、蛇身となって僧侶を道成寺まで追い、道成寺の鐘に巻きついて、中に隠れていた僧侶を焼き殺してしまうという悲恋の物語。
 この物語の原話と思われる説話には安珍清姫の名はなく、ヒロインは寡婦です。ヒロインを人妻とする話もあり、ヒロインがどういう女であるのかでがらりと物語の印象が違ってしまうと思います。この物語を悲恋物語とするために、ヒロインが清姫という若い娘とされたのでしょう。

 清姫の里とされる真砂では、以下のような話が伝えられてきました。

 真砂の庄司清重は妻に先立たれ、息子と暮らしていた。
 清重はある日、黒い大蛇に呑み込まれようとしている白蛇を見つけて助けてやった。
 しばらくして熊野参詣者の女が清重の館を訪れ、泊めてくれと頼むので、清重はその女を泊めた。
 この女が白蛇の化身であったのだが、清重と女は結ばれ、清姫が生まれた。

 奥州白河の安珍という美形の僧侶は毎年熊野詣をして、真砂の庄司の館に宿を取っていた。
 安珍は「あなたは大人になったら、私の妻になるんですよ」と幼い清姫を可愛がり、清姫も安珍を慕い、その言葉を信じて成長した。
 清姫が13歳になったその年、安珍はいつものように庄司の館に泊まった。その夜、安珍は、障子に映った蛇身の清姫の姿を見てしまう。清姫は蛇の化身であったのだ。安珍はその姿に怖れをなした。
 正体を見られたと知らぬ清姫は安珍に早く夫婦になりたいとせがんだ。安珍は「熊野参詣を果たしたのちに夫婦になろう」といつわり、熊野に発った。

 安珍は熊野参詣からの帰路、真砂に立ち寄るわけにはいかないので、途中から別の道を通り、潮見峠を越えて田辺に下った。
 清姫は安珍の帰りを待ちわびたが、あまりにも遅いので熊野帰りの旅人に尋ねてみると、旅人は、その僧なら自分より先に下向したと答えた。
 清姫は、だまされたのかと悔しがり、潮見峠へ駆け上がった。峠から麓を眺めてみたが、安珍の姿は見えない。そこで、清姫は杉の大木によじ登り、高所から安珍の姿を探した。街道を急ぐ安珍の姿が見つけた。清姫は口惜しさのあまり身をよじった。すると、登っていた杉の木の枝や幹までもよじれてしまった。

 杉の木の上から安珍の逃げゆく様を見て、絶望した清姫は里に引き返し、富田川の淵に身を投げた。その怨念が怨霊となり大蛇となって安珍を追い、道成寺の鐘に隠れた安珍を焼き殺した。

 清姫がよじった杉は「捻木(ねじき)」と呼ばれ、熊野古道「中辺路」の派生ルート「潮見峠越え」の途中にある捻木峠に現在もなお青々と葉を茂らせているそうです。
 中辺路町には他にも、清姫が水垢離をとったという「清姫渕」、そのとき衣を掛けたとされる「衣掛松」など、清姫にまつわるものが残されています。
 また真砂には、

 欺かれたことを知った清姫は、安珍を追いかけもせず、大蛇にもならず、安珍を焼き殺しもせずに、世を儚んで富田川に身を投げて亡くなった。

 という清姫の里ならではと思える話も伝えられてきました。
 真砂では毎年4月23日に清姫の供養祭が営まれ、7月の最終日曜日には中辺路町のお祭りとして「熊野古道清姫まつり」が催されています。

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 清姫の墓の隣には薬師堂が建っています。耳の病に霊験のある薬師さんだそうで、耳の病をもつ人が祈願して完治したときに供える「耳石」という穴のあいた石がたくさん吊り下げられていました。


清姫の墓近くの富田川の流れ

 ◆ 参考文献

くまの文庫2『熊野中辺路 伝説(上)』熊野中辺路刊行会
高野澄『熊野三山・七つの謎』祥伝社 ノン・ポシェット
中瀬喜陽『説話世界の熊野―弁慶の土壌』日本エディタースクール出版部
乾克己・小池正胤・志村有弘・高橋貢・鳥越文蔵 編『日本伝奇伝説大事典』角川書店

 

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アクセス:JR紀伊田辺駅から龍神バス栗栖川・熊野本宮行きで37分、清姫バス停下車、徒歩1分
駐車場:無料駐車場あり
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中辺路町企画かんこう課 Tel:0739-64-0500

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(てつ)

2003.2.23 UP

 

 

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