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◆ 三島由紀夫『殉教』新潮文庫


レビュアー:てつ(2008.3.13 UP)

 三島由紀夫が死の直前に編んだ自選短編集『殉教』。「異類」をテーマにしたこの短編集には「三熊野詣」という一編が収められています。

 「三熊野詣」の初出は昭和40年1月『新潮』。その当時の熊野詣はこのようであったのだろうなあ、と感慨深く読みました。

 この小説に登場する老学者、藤宮先生は折口信夫がモデルらしいですが、何か痛々しい人物に描かれています。変人です。たしかに「異類」です。

 「三熊野詣」は、藤宮先生が、歌の弟子で藤宮先生の家で家事手伝いをしている常子という中年女性を連れて熊野三山を巡るというお話。常子の視線から描かれています。

 船上から那智の滝を見ての常子の感想がおもしろい。

 あれが那智の滝だとすると、自分たちは、遠い滝の秘密を、のぞいてはいけない場所からのぞいてしまったという感じがする。(中略)それはあたかも、見てはならない神の沐浴の姿を、遠くから瞥見してしまったような感興をそそり、常子はきっとあの滝の神こそ処女なのだと考えた。

 それが、那智の滝を眼前にして『あれは狂女なのだ』との感想を抱くのもまたおもしろい。

 最後、晴れやかな気分になれていいです。藤宮先生にはちょっとかわいそうですが。

殉教 (新潮文庫)
殉教 (新潮文庫)三島 由紀夫

おすすめ平均
stars本書は蜜の味の毒薬です
stars死を持って全うするという虚構
stars三島のエッセンスが濃縮された作品集
stars「三熊野詣」は有名だね。だけど、

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