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南方熊楠「拾好な菌類と連合して、それに養われるという幸運な目にちょっと逢い難いから」

拾好な菌類と連合して、それに養われるという幸運な目にちょっと逢い難いから

ギンリョウソウ
ギンリョウソウ

…多くの蘭類やこの水晶蘭などは、なかなか拾好な菌類と連合して、それに養われるという幸運な目にちょっと逢い難いから、なるべく多く種子を生んで一つでも旨く物になるを庶幾(しょき:心から願うこと)する。

したがって蘭や水晶蘭の種子は、他の近類の種子に比して、その数はるかに多く、またなるべく諸方へ撒き布(し)くべきために身軽くできおる。

ー 「周参見から贈られた植物について」『南方熊楠全集』6巻

 南方熊楠がギンリョウソウ(水晶蘭)について書いた文章の中にある、その種子について触れた箇所です。

 ギンリョウソウはツツジ科の無葉緑植物。全体白く、葉緑素を持たずに菌類に寄生して生きる植物です。このような植物は昔は腐生植物と呼ばれ、今では菌従属栄養植物と呼ばれます。

 ギンリョウソウはベニタケ属の菌類に寄生します。「拾好な菌類と連合して、それに養われるという幸運な目」に逢うためにギンリョウソウがどのような種子散布方法を取っているのか、熊楠の頃にはわかっていませんでした。

 植物が種子を散布するのに風や水や動物を利用することが一般的に知られています。熊楠は種子の多さと身軽さに注目しているので、風や水による散布を想定していたのかもしれませんが、近年の研究でその散布方法が明らかにされました。

“ゴキブリ”にタネまきしてもらう植物「ギンリョウソウ」 | academist Journal

光合成をやめた植物3種の種子の運び手をカマドウマと特定 ―風も鳥も哺乳類も手助けしない植物の種まき方法― | Research at Kobe

 ギンリョウソウは果肉をゴキブリやカマドウマなどに食べさせて種子を諸方へ散布します。

 動物を種子散布に利用する植物は動物に果肉を食べさせて種子を糞と共に排出してもらうという方法で種子を散布しています。種子の運び手は主に鳥類と哺乳類です。昆虫に食べられて種子を散布するという方法はこれまでほとんど知られていませんでした。

 ギンリョウソウの果実には数百個の種子が入っています。種子は微小で、堅い皮に包まれており、昆虫の消化管を消化されずに通過し、排出されます。

 菌従属栄養植物にとって地表で生活する昆虫が種子の運び手に最もふさわしいであろうことは想像できます。今後、多くの菌従属栄養植物の種子の運び手が地表で生活する昆虫であることがわかってくるのかもしれません。

 かつては葉緑素を持って光合成を行っていたギンリョウソウは、ベニタケ属の菌類に寄生し、ゴキブリなどの昆虫と共生することで、今ある姿に進化しました。

 ギンリョウソウが生存を続けるには、「拾好な菌類と連合して、それに養われるという幸運な目」に逢う必要があります。土壌中には拾好な菌類の菌糸のネットワークがあり、地表にはゴキブリなどの昆虫がいなければなりません。

 ギンリョウソウのように光合成をやめて他の生物に寄生して生きる植物を、熊楠は森の豊かさの象徴するものだと考えました。

(てつ)

2024.5.9 UP

参考文献