み熊野ねっと 熊野の深みへ

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熊野権現の戒め

盗人を熊野権現が戒める

 先日、雨降りの日に出かけて傘を盗まれました。腹立ちますねー。(-"-;)
 熊野にお参りにいらっしゃる方、熊野で人の物を盗んだりはしないでくださいね。きっと神罰・仏罰が下ります。熊野詣は精進潔斎の道。熊野の神様はあらゆる人々を受け入れますが、そういうことに関しては厳しいのです。
 神罰・仏罰が下らないとしても、人の物を盗んでお参りしても、御利益はありません。人の目がなくとも、神様はすべてを見ています。

 ということで、江戸時代のこととして伝わるお話。

 元禄8年5月のある夜、中三栖(なかみす:現・田辺市中三栖)の大庄屋の真砂(まなご)家の裏の畑にある持仏堂から本尊である薬師如来の木像が盗まれた。
 盗人2人組は山奥に逃げ、継桜王子の近くでひと休みした。休憩を終え、立ち上がろうとしたとき、どうしたことか、背負っていた薬師如来像が重くなり、立ち上がれなくなった。もう1人も身体が痺れて動けなくなった。

 通りがかりの村人や旅人が急に病気になったものと思い、いろいろ手を尽くしたが、どうしても2人の腰が立たない。
 そこへ熊野詣の一行がさしかかり、その一行の先達が2人の病気を治そうとまじないをして2人の体を数珠でさすったが、治らず、先達は2人が何か悪事を働いたがために体が動かせなくなったものと判断した。

 そこで先達が2人を問いつめると、2人は薬師如来像を盗んだことを白状した。
 先達は「仏像を盗み、しかも本宮に向けて逃げてくるとは」とあきれたが、「これは熊野権現の戒めにあったに違いない。2度とこのようなことはしないと誓うなら、私が熊野権現にわびを入れてあげよう」と、錫杖を鳴らし、法螺貝を吹き、祈祷を始めた。
 2人の盗人も王子社に向かって頭を下げたところ、体の痺れも取れてきた。

 先達が盗人の背中の包みを改めると、薬師如来像が現れた。
 真砂家に知らせると、さっそく迎えの者が来て、薬師如来像を本の堂に帰した。
 2人の盗人は改心しているので大目に見ることにしたが、盗人が熊野権現の戒めにあったという話は近隣に広まった。

 薬師如来は熊野権現の本地仏のひとつ(速玉神の本地仏)。
 真砂家の持仏堂(薬師堂)は、中世にその辺りにあった三張(みはり)寺という白河院に縁のある寺(白河院が熊野御幸の折、三張りの弓を奉納した)のなかの小堂が残ったものと伝わります。

(てつ)

2003.6.20 UP
2020.9.9 更新

参考文献