■ 熊野の説話 |
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◆ 妖怪「ダル」 |
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山では「ダル」に憑かれるということがたまにあるそうです。 これは、山で飢えて死んだものが悪霊になって、人に取り憑くのだといわれています。日本全国にその伝説は分布していますが、特に熊野を含む紀伊半島で多く伝えられているようです。 空腹のときに憑かれやすく、ダルに憑かれたときは米を一粒でも食べるとダルが退くと熊野辺では伝えられています。 口熊野・田辺に在住した世界的博物学者南方熊楠(みなかたくまぐす)も熊野山中で取り憑かれたことがあるといいます。 予、明治三十四年冬より2年半ばかり那智山麓におり、雲取をも歩いたが、いわゆるガキ(ダルのことです)に付かれたことあり。寒き日など行き労れて急に脳貧血を起こすので、精神茫然として足進まず、一度は仰向けに仆れたが、幸いにも背に負うた大きな植物採集胴乱が枕となったので、岩で頭を砕くを免れた。それより後は里人の教えに随い、必ず握り飯と香の物を携え、その萌しある時は少し食うてその防ぎとした。 南方熊楠は、同じ文章中に、菊岡沾涼の『本朝俗諺志』という書物からダルに関する話を引用していますので、それを口語訳して紹介します。 紀伊国熊野に大雲取、小雲取という二つの大山がある。この辺に深い穴が数カ所あり、手頃な石をこの穴に投げ込むと鳴り響いて落ちていく。2、3町(1町は約109m)、行く間、石の転がる音が鳴りつづけているという限りのない穴である。 「大雲取越え、小雲取越え」は那智から本宮へと向かう熊野参詣道(熊野古道)。「死出の山路」とも呼ばれ、その道を歩いていると、ダルに取り憑かれたり、亡くなったはずの肉親や知人に出会ったりするという不思議な現象に遭遇するといわれています。 終日嶮岨を超す。心中は夢の如し。いまだかくの如きの事に遇わず。雲トリ紫金峰は手を立つるが如し。・・・ などと「大雲取越え、小雲取越え」のことを記しています。よっぽどしんどかったのでしょうね。(^_^;) しかし、ダルに憑かれるなんてことは、昔のことで、いま現在はもうないだろうと考えていましたが、日本テレビ系のテレビ番組「特命リサーチ200X」(1999.7.4に放映)でダルのことを取り上げているのを見てびっくり(番組では「ひだる」と呼んでいました)。現在でもダルに憑かれるということはあるのですね。狐憑きといっしょで、昔はよくあったけれど今はもうない現象だと思っていたので、驚きました。 「特命リサーチ200X」では、近年に大台ガ原(奈良県と三重県の県境をなす台高山系の主峰のひとつ。最高峰日出ガ岳は標高1695m)にてダルに憑かれたと思われる事例をいくつかあげ、その共通事項として次のような点を指摘。 1.何かに取り憑かれたと感じるが誰一人として姿を目撃していない。 2.直前に何か異様な気配を感じる。 3.意識がもうろうとし体に急激な脱力感を感じる。 4.それは2〜3時間で消え去り後遺症は残さない。 以上のことからガス中毒ではないかと推測。大台ガ原でガス濃度の計測を行ったところ、大気中の二酸化酸素濃度が8250ppm(通常の大気中に含まれる濃度が400ppmだというから、なんと通常のおよそ20倍!)だった場所があったそうです。 落ち葉などの有機物が腐食することによって二酸化炭素は発生しますが、ふつうは風に吹かれて、拡散し、通常の何倍もの濃度になることはありません。 昔の人々が「ダルに憑かれる場所は山や硲でたいがい決まっている」といってきた、その決まった場所というのは、窪地など、発生した二酸化炭素が拡散せずに一所に溜まる場所、ということなのではと想像しました。 このような山での二酸化炭素中毒の事故は、日本全国、有機物が腐食する場所なら、どこでも起こりえますが、とくに二酸化炭素が発生する条件(1.豊富な落ち葉などの有機物 2.暖かい気温 3.降雨量が多く湿度が高い、など)が整っている紀伊半島の山々では、とくに二酸化炭素中毒事故の発生件数が多かったのではないかと思われます。そのため、紀伊半島ではとくに多くダルについて語られてきたのでしょう。 ダル(山での二酸化炭素中毒)を避けるには、 1.ガスが溜まりやすい窪地は注意が必要。 2.万が一急激な脱力感に襲われた時は、顔を高い位置に保って高い場所に避難する。 3.単独での登山は避ける。 とのことです。熊野の山ではダルに憑かれないように気をつけましょう。 (てつ) 2003.6.14 更新 ◆ 参考文献・引用文献
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