■ 創作童話

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★ 土竜と蜂の恩返し  『情けは ひとの 為ならず……』  (正和 作)


初めに:
 このお話は、私が最近知り合った本宮町に在住の正和さんという方の創作童話です。
 先日、正和さんのお宅に伺ったときに、ワープロで印字して小さな冊子にした創作童話を朗読してくださいました。それを聞いて、私は感動し、もっと大勢の人にこのお話を読んでもらいたいと思い、正和さんの許可を得て、こちらに転載させていただくこととなりました。

 それでは、はじまり、はじまり〜。  (てつ)


土竜と蜂の恩返し  情けは ひとの 為ならず       (正和)

 

奥熊野本宮の町に 皆地生きものふれあいの里 という小さな集落が有ります。
その里に、おじいさん・おばあさんの夫婦が住んでいました。

二人とも花や小鳥や自然が大好きで、庭には、山茶花(さざんか)や紅梅・白木蓮・姫こぶし・ボケの花・海棠に白藤・百合に牡丹やつつじ・さつき等いろいろの花々が寒い冬から春・初夏と次々に可愛い花を付け、鵯(ヒヨドリ)や鶇(ツグミ)・ジョウビタキ・メジロなど、花の蜜や木の実を求めて小鳥たちが集まり、紅梅・海棠の木の下に作っている巣箱と餌箱には朝早くから雀達が群れて遊び、
おばあさん・おじいさんたちの目が覚めるのが遅い朝などには、前の前線や屋根の上に並んで、早く早くと餌をねだって鳴いています。
裏の茶畑の処には、山雀が来て香の木の実を啄んでいます。

おばあさんが向日葵の種を掌に乗せて差し出すと最初は恐る恐る、馴れて来ると平気でその餌を取って食べています。家の右手の方に畑が有り、二人は大根や白菜・玉葱に馬鈴薯・里芋や薩摩芋、それに西瓜や茄子・トマト等、季節の野菜を作って、新宮市・鵜殿村・紀宝町などに住む子供や孫たちの処に届けるのを楽しみにしていました。

 

ところが自然は人間の都合の良い事ばかりでは有りません。
二人は畑に肥料になるものをたくさん入れて耕しているのでミミズや小さな虫が多くなり、それを狙って土竜(もぐら)がやってきます。
困った事に丹精込めて作っている西瓜の苗などの下を遠慮会釈もなく掘り起こすので、折角育てている苗が枯れてしまう事も有り、おばあさんは困って、おじいさんに「こんなに土を掘り返されるとどうしょうにも方法がない。土竜脅しの風車を作って…」と言いました。

おじいさんは早速ペットボトルで風車を作って立てました。それから屋根の桶の切れ端や壊れた扇風機などを利用したり、木を削って鳥を作り羽が回る様にしたり、いろいろの風車を作り、畑に立てました。風のある日には大変賑やかなものです。

ところが風があまりに強かったのでペットボトルの風車が壊れてしまいました。おじいさんはやむなくそれを外して、その心棒をブロック塀の上に置きました。

 

それから何日か過ぎた日の事です。おばあさんが「おじいさん。また土竜が土を掘って困るから風車を立てておくれよ」と言うので、おじいさんは早速ペットボトルで風車を作ろうとブロック塀の上に置いておいた心棒を持ち上げました。

するとその先の方になにか小さな物が付いていて虫の様なものが回りを飛び始めました。よく見るとそれは1匹の足長蜂(アシナガバチ)で、心棒に付いていたのは蜂の巣だったのです。おじいさんはしばらく手に取って眺めていましたが、やがて「この足長蜂もここを最良の住家に選んで巣を作り始めたのだから」と、その心棒を元通りブロック塀の上に戻して別の針金を切って心棒を作ってペットボトルを取り付けて風車を畑に立てました。

 

それから初めは1匹だった蜂の巣も段々大きくなり蜂の数も次第に増えて夏には数十匹の大家族になりました。おじいさんは、それをいつも眺めては「お前達よ、人間の子供達やお年寄りの方達には決して針を刺してはいけないよ」と話しかけていました。

よく見れば蜂蜜はそれぞれ役目を分担して餌を取りに出かける者・巣の修理や増築をする者・巣を取り付けている心棒が塀から落ちない様に口から液を出して固める者もいれば暑い日などは羽を震わせて巣の中に風を送り室の温度を下げるのに一生懸命な者・まだ幼い子蜂は餌を取ってきた蜂から口移しにそれをもらって食べている。
一家みんながそれぞれに力を合わせて暮らしているのは人間にあまり好かれない蜂達であっても微笑ましいものです。

お天気のよい日などには子供達は巣の外で一塊になって大騒ぎ。そのうち手や足をつなぎ合わせて巣からぶら下がり始めました。
その時、上の方の蜂の手が離れて何匹かが下の石ころの上に落ちてしまいました。
その中の1匹が右の目と後ろ足を石の角に打ち付けて足が1本折れて目も片方つぶれてしまいました。おじいさんは可愛そうに思ってその蜂をそっと巣に戻してあげました。

そのうち秋風が吹く様になりやがて寒い冬がやって参りました。すっかり成人(いや成蜂かな?)した蜂達もこの巣では冬を越す事は出来ません。
暖かい冬越しの場所を探して、みんなつぎつぎにいなくなり、仲良く暮らした巣も雨や風に叩かれて修理する蜂も無く廃屋になってしまいました。
あの片目がつぶれて足が1本折れてしまった蜂さんも元気に冬が越せるでしょうか」……

 

一方、畑の方では寒い冬も冷たい風も関係無しに土竜が風車を笑うかの様にそれは東京の地下鉄の様に畑の中にトンネルを縦横に作って、これにはおじいさんもおばあさんもほとほと閉口してしまいました。
それは真っ白に霜の降った寒い朝の事でした。いつもより早く起きたおじいさんが畑に出てみると蜜柑の木の根元で土がもこもこと動いています。土竜です。一生懸命にトンネル作業の最中です。ミミズを探して夜のうちに出来なかった仕事の続きをしているのでしょうか……

しばらく眺めていたおじいさんは、いたずら心で掘っている後ろ側の土を思い切り踏み付けました。
前向きには速度の遅い土竜ですが、後ろの方には地下鉄の特急電車よりもスピードが速い土竜です。
慌てて後ろ向きに発車しましたが残念ながら折角作ったトンネルもおじいさんに壊されたので走る事が出来ません。とうとう外に出てしまいました。

 

おじいさんは土竜を捕まえて小さな有るか無いかの目を見ながら『さてどうしようかな』。
畑を掘り返すのは困ったものですが土竜達も生きる為に一生懸命なのです。おじいさんは思案した挙げ句の果てに、土竜を軽トラックの荷台に乗せました。
そして川向いにある自分の家の山に行き、「ここだったら、どれだけ掘っても大丈夫。ただ畑よりミミズは少ないが餌になる他の虫も居るだろう。少し日当りが悪いので気の毒だが元気で暮らしなさい。また、違う事も有るでしょう」と言って逃がしてあげました。土竜は尖った鼻を動かして、見えない小さな目でおじいさんを見ていましたが、やがて土の中に潜って行きました。

 

おじいさんもおばあさんもなにかと忙しい毎日が続き、この事も忘れるとも無く忘れて、やがて蕗の薹が顔を出し、紅梅の花も満開になって春が近いのを告げる様になったある日の事です。おじいさんは畑の回りの囲い新しく変えようと思いました。
網は子供から貰って来ているので、柱を作ろうと向かいの山に行き、以前に間伐していた木を2m程の長さに切って道路まで持ち上げ始めました。

何度も急な山の中を上がっているうちに、だんだん疲れて来ました。
いよいよ最後の1荷になった時の事です。
途中で足が滑り転げ落ちそうになりました。
もし転ぶと大変です。 下の河原まで落ちたら大怪我するか下手をすれば生命にかかわります。おじいさんは必死に踏み止まろうと頑張りました。

すると、不思議な事に担いでいる木が急に軽くなり滑っていた足が止まりました。
よく見ると担いでいる木の下側に、何か小さなものがいっぱい止まっています。
それは足長蜂だったのです。
右の目が潰れて片足の無い蜂が先頭になり数十匹の蜂が一斉に羽を震わせて木を持ち上げてくれていました。
そして、足下を見ると3匹の土竜が楓の様な手を広げ顔を真っ赤にして足の滑るのを支えてくれています。

そのお陰でおじいさんは無事に道路まで上がる事が出来ました。
道に座って荒い息を吐いていると、足長蜂が申しました。
おじいさん、無事で良かったネ。私達もお陰でみんな元気に暮らしています。また暖かくなったら行きますから、身体を大切にして下さいよ」と言ってみんな一緒に飛んでいきました。

土竜のお父さんは、
おじいさん、あの時は本当に有難う。この山に来てから妻を貰いご覧の様に可愛い子供も生まれて幸福な生活をしています。食べる物も結構に有りますし、ここは人間に憎まれる事も有りません。こうして平和に生きられるのは、おじいさんのお陰です。今日は蜂さん達に応援して頂いておじいさんの転ぶのを防ぐ事が出来ました。せめてもの私のご恩返しです。もう御歳ですから無理は禁物。充分身体を大切にして下さい
そう言って子供を連れて仲良く土の中に潜っていきました。

おじいさんは、蜂さん、土竜さん、有難うとお礼を言いながら、小さな声で呟きました。
情けは ひとの 為ならず』と。

 

そして、おばあさんの居る家に急ぎました。
家の近くの電信柱では鳥のカン太やカー子さん、庭の柿の木では鵯(ヒヨドリ)のピ−子さん、巣箱では雀のチュン子、チュン太郎、裏の柿の梢では山雀(ヤマガラ)のミー子達が、おばあさんと一緒に、みんなでおじいさんを迎えてくれました。

山里は今日も静かに暮れて行きます。

おわり


熊野の説話で紹介しているモグラが恩返しするお話「モグラ水道、海中井戸」もぜひご覧ください。

(てつ)

2009.3.20 UP

 

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